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ネオテニー

写真は、扇風機を操作するネコ。
(ほんとは、お気に入りのクッションがみあたらないための代償行為)

「幼少女」に関するオシゴトをいただいたので、ネオテニー的な方向から考察するためのメモ。

松岡正剛によるアシュレイ・モンターギュ「ネオテニー」書評より
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1072.html

スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』のラストシーンの“生き物”は老人なのか幼児なのかわからない。評伝によると、キューブリックはあのころしきりにネオテニーを研究していた。

 オラフ・ステープルドンの『最初と最後の人間』の最後に登場してくる人間は成人に達するのになんと2000年をかけた。ティンカーベルを連れまわっているジェームズ・バリのピーターパンや時間泥棒に疑問をもつミヒャエル・エンデのモモは、成長を極度に遅らせたがっていた。ピーターパンやモモだけではない。日本でいうなら桃太郎も一寸法師もかぐや姫も、つまりは親指姫もニルスも三年寝太郎も、いずれもネオテニーを最大限に引きのばしている典型的な童話や昔話なのである。

ネオテニーはいろいろなところに見られる。ミッキーマウスからドラえもんまで、鉄腕アトムからちびまる子ちゃんまで、大半のマンガの主人公はネオテニーにかかっている。頭でっかちで目が大きくて、その表情は幼児にもわかるようになっている。
 連載マンガの推移に顕著なことであるのだが、フクちゃんも鉄腕アトムもワカメも発表当初の表情や輪郭より、連載がすすんでからの表情や輪郭のほうがよほど幼稚で、かわいらしくなっているものなのだ。

 いったい世界中はなぜこんなにもネオテニーが好きなのか。実は哺乳類・ヒト属・人間が生物のなかでも最も劇的にネオテニー戦略を活用した生物だったのである。人類学者であって解剖学者でもあるアシュレイ・モンターギュも、そうした人間におけるネオテニーの劇的効果を強調したくて、本書を書いた。

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ネオテニーは発育過程が「遅滞」することによって、胎児や幼児の特徴がそのまま保持される風変わりな生物学的な現象をいう。あきらかに生物的な戦略だ。

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人間における未熟な期間の長さは、たんに絶対的に長いのではなくて、一生の長さに対する割合からみても他のどんな生物より長くなっている。

 また、胎内で一人で子宮にいたということ、生まれてすぐに乳房につかまる競争相手がいないということも、人間の赤ん坊に独自なことだった。むろん双生児のような例外はあるものの、大半の人間の子は未熟であって、かつ一人ずつが十全な保護をうけられるようになっているのだ。

 これらは体毛を失い、アドレッサンス(発情期)を失った人間が、性的なリビドーが高まって異性を求める前にあえて長い小児期をもつように組み立てたネオテニー戦略なのである。

 すなわち人間の幼児期や小児期という「大幅にのばされたフラジリティ」こそが、人間が人間であろうとするための分母的な時空なのである。つまり子供はネオテニーの本質であって、それゆえに「つねに新しい存在」なのである。

 あとは大人たちが、この「つねに新しい存在」を感じられるかどうかだけだ。それにはときどきは涙ぐんで、人間のフラジャイル・ネオテニーの本質が「子供を延長させた涙もろさ」にあることを思い出すことだろう。

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われわれは少年期と少女期を捨てすぎたのである。だったら、これをいつか取り戻すべきなのだ。そう、「幼ななじみの生物学」を取り戻すべきなのだ。

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ユング 「オカルトの心理学」

通常われわれは自分の過去にしがみつき、自分は若いという錯覚にはまりこんでいる。老いていることはひどく嫌がられる。

人間が30歳になってもまだ子どもじみているのは、たしかに嘆かわしいけれども、70歳になってもまだ若々しければ、それは喜ばしいことではないか?

だがどちらも意固地で行動方式を欠いた心理学的奇形である。

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われわれは、いつも実際のわれわれとは多少違う。われわれの意識は、どうしたことか、その自然の土台からずり落ちてしまって、もはや自然のタイミングにあわせてやっていく方法がわからなくなっているかのようである。

われわれは、年齢は願いに応じて変えることのできるたんなる幻覚にすぎないのだと、われわれをだまして信じこませる意識の傲慢さを病んでいるかのようである(一体われわれの意識はかくまで自然に反する能力をどこで得るのか、またそのような気まぐれは何を意味するのだろうか、と疑問に思う)。


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ネオテニー neoteny ( 垂水雄二 科学ジャーナリスト )

幼形(幼態)成熟ともいう。体が成体にならないまま性的に成熟し、繁殖すること。


メキシコサンショウウオ(産地によってはアホロートルと呼ばれる)は幼形成熟を示すよく知られた例。甲状腺ホルモンの投与によって成体に変態させることができる。

このようなホルモンの異常だけでなく、組織の反応性がないため変態が起きず、ネオテニーになる例もある。

L.ボルクはヒトの胎児化もネオテニーの一種と考え、人類進化におけるその意義を強調する胎児化説を唱えた。